すべて同じに見える黒い道路。実は「レシピ」が全く違う
私たちが毎日、何気なく車で走っている黒いアスファルト道路。一見すると、どれも同じように見えるかもしれません。しかし、その見た目の下には、私たちの想像以上に奥深い、材料科学の世界が広がっています。
実は、アスファルト舗装は、単一の決まった材料で作られているわけではありません。それはまるで料理の世界のようです。最高の料理人が、作る料理や食べる人に合わせて、食材や調味料の配合をミリ単位で調整するように、私たち舗装のプロフェッショナルも、その道路が使われる「場所」と「目的」に応じて、中身が全く異なるオーダーメイドの「アスファルト合材(ごうざい)」を使い分けているのです。
今回は、そんなアスファルト合材の奥深い世界と、その「レシピ」をどうやって選んでいるのかについて、詳しく解説していきます。
そもそも「アスファルト合材」とは何か?3つの基本

「合材」という言葉自体、聞き慣れないかもしれません。まず、その正体を知るための3つの基本をご紹介します。
① 主な材料は「石・砂」と、接着剤の「アスファルト」
アスファルト合材の構成は、意外とシンプルです。その約95%は、大きさの異なる「石(骨材)」や「砂」「石粉」でできています。そして、残りの約5%が、これら骨材を強力に結びつけるための、黒い接着剤の役割を果たす「ストレートアスファルト(石油アスファルト)」です。つまり、主役は「石」であり、アスファルトはそれらを固めるためのバインダーなのです。
② なぜ160℃以上の高温で製造・運搬するのか?
アスファルトは、常温では粘り気の強い半固形物です。このままでは、骨材の一つひとつに均一に混ぜ合わせることはできません。そのため、アスファルトプラントという専門の工場で、160℃以上の高温に加熱し、液状に溶かします。この状態で骨材と混合し、保温機能のある特殊なダンプトラックで、熱々のまま現場まで運搬します。この温度管理こそ、アスファルトの品質を保つための生命線なのです。
③ 「レシピ(配合)」が違うと、性能が大きく変わる
アスファルト合材の最も面白い点は、その「レシピ(配合)」を調整することで、性能を自由自在にコントロールできることです。骨材の粒の大きさのバランスを変えたり、特殊な材料を混ぜたりすることで、水はけを良くしたり、騒音を抑えたり、あるいは大型トラックの重さに耐えられるようにしたりと、様々な機能を持たせることができます。このレシピの選択こそ、舗装技術者の腕の見せ所です。
道路の”標準服”。最も使われている2つのアスファルト合材

まずは、様々な合材の中でも、最も基本的で、多くの道路で使われている「標準服」とも言える2種類をご紹介します。
① 一般道のエース「密粒度アスコン」
「密粒度(みつりゅうど)アスファルトコンクリート」は、その名の通り、大小さまざまな大きさの骨材を、隙間が少なくなるように緻密なバランスで配合した、最も標準的な合材です。骨材同士ががっちりと噛み合い、水の侵入も防ぎやすいため、耐久性が高く、非常に経済的です。私たちが普段目にする、ほとんどの一般道や駐車場などで使われている、まさに「舗装のエース」です。
② 環境とコストに配慮した「再生アスコン」
道路を補修する際に剥がされた、古いアスファルトの塊。かつては産業廃棄物として扱われていましたが、今は貴重な資源です。「再生アスファルトコンクリート」は、この古いアスファルト塊を専門のプラントで細かく砕き、新しい骨材やアスファルトと混ぜ合わせて作られます。新しい資源の使用を抑え、コストも削減できるため、環境配慮が求められる現代において、その使用はますます広がっています。
特別な性能を持つ”機能服”。課題を解決する特殊なアスファルト合材

標準的な合材だけでは解決できない、特別な課題に応えるために開発された「機能服」のような特殊な合材も存在します。
① 雨の日の安全を守る「排水性(開粒度)アスコン」
高速道路などで多く使われる合材です。骨材の粒を大きめのものに揃えることで、アスファルト内部に意図的に多くの隙間を作っています。これにより、雨が降っても水が表面に溜まらず、内部を通り抜けて路肩に排水されます。水しぶきが上がりにくく、タイヤが水膜の上を滑るハイドロプレーニング現象も抑制するため、雨天時の安全な高速走行を支えています。また、隙間がタイヤの騒音を吸収する効果もあります。
② 交差点の”わだち掘れ”に抗う「改質アスファルト」
バス停や交差点など、車が頻繁に停止・発進を繰り返す場所では、夏場の高温時にアスファルトが変形し、「わだち掘れ」ができてしまいがちです。これに対抗するのが、アスファルトに特殊なポリマー(樹脂)などを添加して、耐久性や耐熱性を格段に向上させた「改質アスファルト」です。過酷な交通状況に耐える、いわば”強化服”のような存在です。
③ 都市の暑さを和らげる「保水性アスコン」
都市部のヒートアイランド現象を緩和するために開発された合材です。これも内部に隙間を持つ構造ですが、排水性とは逆に、雨水を内部に保持する特殊な材料が使われています。保持した水分が、晴れた日に蒸発する際の気化熱によって、路面の温度上昇を抑制します。主に歩道や公園などで利用され、人々に優しい環境を作り出します。
私たちは、どうやって最適な「レシピ」を選んでいるのか

これほど多様な合材の中から、私たちはどのようにして、その現場に最適な一つを選び出しているのでしょうか。それは、まさに総合的な「診断」のプロセスです。
① その道を通る「交通量」から選ぶ
まず基本となるのが、交通量のデータです。一日を通して、乗用車が何台通るのか。そして、道路に大きなダメージを与える大型トラックの通行量はどれくらいか。これらのデータから、道路に求められる基本的な強度を算出し、最適なレシピの候補を絞り込みます。
② 坂道、カーブ、気候といった「場所の特性」から選ぶ
交通量だけでは、最適なレシピは選べません。その場所が抱える固有の課題を読み解きます。急な坂道やカーブであれば、滑りにくい合材を。雨量が多い地域であれば、排水性を。寒冷地であれば、低温でもひび割れにくい合材を。地形や気候といった、場所の特性を深く理解することが不可欠です。
③ お客様の「要望と予算」に合わせて最適解を導き出す
そして最後は、お客様との対話です。この道路を、どのくらいの期間、どのような状態で維持したいのか。ご予算はどれくらいか。私たちは、単に言われたものを作るのではなく、道路のプロとして、性能、寿命、そしてコストのバランスを考え抜いた、複数の選択肢を提示します。そして、お客様と共に、その場所にとっての最適解を導き出すのです。
材料の知識が、仕事の質を、そして君の価値を上げる。

ただ言われた通りにアスファルトを敷くだけなら、それは単なる「作業」かもしれません。しかし、その場所が抱える課題を読み解き、無数のレシピの中から最適な合材を選択し、未来の安全と快適を創り出す。それは、深い知識と経験が求められる、専門性の高い「技術」です。
材料を深く知ることは、あなたの仕事の質を、そして技術者としての市場価値を、飛躍的に高めてくれます。
もしあなたが、自分の仕事に知的な探究心と誇りを持ち、社会の基盤を支える本物のプロフェッショナルを目指したいと考えるなら。
ぜひ一度、私たちの話を聞きに来てください。アスファルトの奥深い世界が、あなたを待っています。
→ 採用情報はこちら

